「切断された根系直径と発根量の関係 および太根切断箇所の処置方法に関する研究」を開始しました

一般社団法人 街路樹診断協会 技術委員会において、海外の根系保護範囲(CRZ:Critical Root Zone)や樹木保護範囲(TPZ:Tree Protection Zone)の事例を踏まえつつ、日本国内の現状に対して現実的な根系の保護方法や、根を切断する場合の処置方法を検討するため、「切断された根系直径と発根量の関係 および太根切断箇所の処置方法に関する研究」を開始しました。

街路樹は、埋設管設置や電線地中化の工事により根元近くを掘削される場合があります。また、根上がりによる舗装隆起の改修工事によって太根が切断されているケースもたびたび見かけます。
公園や建物周辺の樹木も、縦坑掘削、埋設管や歩行路などの工事で根が切断される場合があります。
このように都市樹木の根は頻繁に障害を受けており、それが原因となり根株の腐朽が進行し、倒木の危険にさらされている樹木が多く存在しています。
しかし、根の切断面直径と発根量の関係を示す報告は見受けません。そして、太根切断箇所の処置方法は確立されていないのが現状です。
そこで、技術委員会では、切断された根系直径と発根量の関係を確認するための調査と、太根を切断した際にどのような処置を講じればよいかを確認する試験を会員企業の圃場で開始しました。

※この記事は2021年3月に公開しましたが、その後、試験開始より11ヶ月経過した2022年1月25日に掘り上げ調査を実施し、調査研究が次の段階に入りました。続報はこちらです。あわせてお読みください。

1.根系切断の許容直径調査(2021年1月15日)

根の切断面直径と発根量の関係を調べる調査として、1年前に街路から圃場に移植されたサクラ(ソメイヨシノ)2本を掘り起こし、切断面直径毎に発生した新根の数を調べました。新たに多くの根が発生している箇所は、切断面の癒合も早く、樹体の回復にも寄与する根系であることが想定されます。反面、新根の発生数が少ない根や全く発生していない切断面は、腐朽菌が侵入しやすく、根系切断箇所から根株腐朽に繋がるリスクが高くなります。

2.太根切断箇所の処置方法試験(2021年2月24日~)

太根切断箇所の処置方法試験の試験区を設けました。圃場に植えられているシラカシ、ケヤキ、クスノキの根系を掘り起し、太根切断面に、チオファネートメチル系の塗布剤、シリコーン系シーリング剤、アスファルト乳剤、浴室タイル補修などに用いられるエポキシ系パテの水中ボンドを塗布しました。それぞれの癒合状況や腐朽菌の侵入状況を対比し、最適な根系切断面処置方法を確認する予定です。

太根の切断
太根切断箇所の処置方法試験 切断面への保護剤塗布状況 (2021/02/24)

太根切断箇所の処置方法試験の結果を得るには一定の期間を要しますが、学会発表も視野に調査、試験結果を取りまとめ、広く発表していく予定です。
また、この取り組みの先には、当協会のビジョンにも掲げられている、日本における根系保護範囲(CRZ:Critical Root Zone)あるいは樹木保護範囲(TPZ:Tree Protection Zone)の基準作りに繋げていきたいと思います。

海外の例

海外ではすでに、行政単位ごとにあるいは業界団体で指針・基準が設けられて運用されています。

【アメリカの場合】
米国国家規格協会の承認を得ている「樹木、低木、その他木本植物のマネジメント―標準仕様」(2012)によると、樹木保護範囲は樹木の幹を中心に、幹直径の6~18倍を半径とする円形エリア。増加係数はアーボリスト(都市樹木専門家)が樹種回復力、樹齢、健康状態、根系、根の深さ、土壌状態などを基に判断することとされている。またその範囲が守れない時には、樹木を守るためにさらなる適切な緩和策を施すこととなっている。*1)

この仕様について、ISA(International Society of Arboriculture)が解説本(Best Management Practices)を出版している。

ISA(International Society of Arboriculture)の場合、樹木保護範囲(Tree Protection Zone)
出典:Best Management Practices‐Managing Trees During Construction (Second Edition) 2016

TPZのイメージ図

根を損傷させることがないよう、TPZ(Tree Protection Zone) 内に車両や重機で立ち入り、盛土や土壌掘削することに対する制限が設けられている。

TPZは、樹種3区分(ダメージに対する回復力の大・中・小)、樹齢3区分(若齢・熟齢・老齢)の組み合わせにより範囲が設定される。

幹を中心に幹直径の6~18倍を半径とする円形のエリアとなる。増加係数は、ダメージに対する回復力が強い若い樹木ほど低く、回復力が弱い老木ほど高く設定されている。

建設による
ダメージに対する
樹種の特性
相対的な樹齢TPZの
増加係数
高い若齢
熟齢
老齢
6
8
12
普通若齢
熟齢
老齢
8
12
15
低い若齢
熟齢
老齢
12
15
18
TPZの半径を決めるためのガイドライン*2)

1)Tree Care Industry Association, Inc. (2012) ANSI A300(Part5)-2012 Tree, Shrub, and Other Woody Plant Management-Standard Practices (Management of Trees and Shrubs During Site Planning, Site Development, and Construction)
2)International Society of Arboriculture (2016) Best Management Practices: Managing Trees During Construction (Second Edition)